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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

三

――よしよし、わしが、連れて来てやる」

三

気さくな叔父に、ひっ張りだされて、庄次郎は、しぶしぶ、蚊帳の中から出てきた。腫れぼったい顔を洗って、父の書院へゆくと、

「どうだ、起きてしまえば、気分が快かろう」

「はい」

「今、二人して、相談していたところだが、何しろ、めでたい。祖父新十郎の才分が、そちの血に伝わったのじゃ。今日にも、藩邸へ出仕いたしたならば、君侯よりも、ご嘉賞のおことばが下がろう。追ッつけ、其方にも、お役付き仰せつけられるに相違ない。――土肥家の大祝事じゃ、よう、いたした」

やかましやの父半蔵が、これほど、欣んでくれたり、賞めちぎってくれたことは、臍の緒きって、初めてだった。

鉄之丞も、ともども、

「それでな、庄次郎」

「はい」

庄次郎は、いっこうに感激のない顔を、ぼやっと向けていた。

「これやあ一つ、無沙汰の親類どもや、同僚どもを、一夕招んで、祝いをせにゃなるまいとわしは思う。なあ、半蔵殿」

「む。……よかろう」

そのことばが、急に耳へ飛びこんだように、庄次郎は慌てて、

「え、祝宴を。……それは……それはまだ」

「謙遜いたすな。――それとも、物費りと思うて、親父への、気がねか」