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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
三
すると、外で、がちゃがちゃと銃の音や、跫音がして、倉の前に、一かたまり立ちどまった。
「この中じゃろう」
奇兵隊の将か、本藩の侍か、権式のたかい声がして、次に云った。
「開けて、探してみろ」
三
錠前がひびく。厚い扉が開く。その途端にすぐ奇兵隊の隊士が、どやどやと、上がってきた。
そこに、露八がいることなどは、一匹のこおろぎとも彼らの眼には見えないらしい。
「ない」
「ない――」
しきりと呟きながら、荷梱を片っ端からひっくりかえしたり、倉の天井を仰いだりして、結局、外へ向かって、
「ありません!」
と、報告した。部将らしいのが、
「ないはずはないっ」
頑固に云って、
「藩船のお旗箱を、仕舞い忘れるやつがあるかっ。責任者は誰だっ」
「当然、船の者です」
「船の者は分かッとる! じゃが、その藩船から、当隊に預けたというではないかっ。預かった者は、誰かっ」
「わかりません」
「わからん? ――こらっ――」
業を煮やしたように、
「貴様ら、あの日、おらんのじゃったか」
「いました」
「おったら、わいらも、責任があるではないかっ。馬鹿者、腹を切れっ」
「…………」
「切れっ。――お旗箱のわかるまで、そこを、出ること相ならん!」