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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
しかし鴎外は、この時代の枠へ人間の心をこすりつけてはいないのよ。こすりつけられた人間の魂の熱さと重さとで枠がゆすぶれるものとは見ていません、その点彼の現実の順応性が実によく出ている。
このことは逆に「高瀬舟」で、白河楽翁時代の江戸の一窮民の遠島されるときの物語にある財産の観念及ユウタナジイの問題を、鴎外がいきなり一般人間性という自分の主観からとりあげているところにもあらわれていると思います。一窮民と扶持もちとでは同じ時代に於て財産の観念は巨大にちがいますし、ユウタナジイのことにしろ、武家のモラルは楽に死なせてやる武士の情というものを承認しているのだから、庶民の男が罪せられたのとはちがった見かたもあったわけです、その現実の相異を、鴎外の主観は何と云っても身分的な差別は失っていて一般人間性のこととして見る丈歩み出していて、その進んだところに止った意味で限界の示されている面白さ。そこから、鴎外が歴史へ働きかけてゆく作家の目と心とを否定して、抽斎などの伝記ものをかくに到った過程はよく分ります、そして鴎外は歴史に向って作家としての手をはなしてしまった。
芥川はあくまで歴史小説をかいたのではなくて、主観の課題を「地獄変」