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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
四月十一日夜
本当にお大切に。くれぐれもお大切に。
私の方、全く徹夜ナシでやりました。本月ずいぶん忙しいが、これも徹夜ナシでやりとおす決心です。徹夜なしで規則正しくやるとなかなか能率的です。三月は小説を二ツ(六十枚、二十七枚)入れて一六四枚かいています。読書は十三日から三二頁。先月はすこし無理でした。疲れたままこの月の仕事をしている感じで。では又月曜日に。これから久しぶりにおふろです、水も節約。それより時間がなかったので。
四月十一日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
四月十一日夜 第二十六信
きのうの夕方も今夜も何と不思議な静かさのみちた晩でしょう。この間うち余り風が吹いて家じゅう揺れて、街では吹きまくられていたから、風がなくなった、こんなにしずかなのかしらと、あたりを見まわすようです。部屋の中も明るくて、底までしずかで。本当に何だかじっとしていられないしずかさ。
二階へ来て物干に出て見たら、西空の方にばかりどっさり星が出ていて、朧月もあって、その下に仄白く満開の桜の梢が見えます。家々の灯が四角や丸やの形で屋根の黒い波の下に見下せて、街燈がない界隈はしずかなそして不安な春の夜です。