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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

八月十九日

私なんか足の裏の皺の走りかたまで見られているようなのね、きっと。それで私は安心していられるのね、こんなに。急転した云いかたでいくらか滑稽だけれど。こういう急転のカーブが妻から良人への手紙の特質かもしれないわ。この曲線はふところのなかへ入って行くのよ。そして、そこでつたかつらと変じるのよ。

八月十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

八月十九日夜  第五十六信

いそいそと二階へあがって来てね。随分久しぶりの夜の机です。多賀子、冨美子、恭子、三人づれで夕飯後銀座へ夜店というものを見に出かけました、私はそれから風呂に入って、まだいくらかポッとしてめがねがくもる位の湯上り。

きょうは三十一度でした。大体この二三日二十九から三十ぐらいだのに、残暑のあつさは格別なこたえようをするのでしょうか。

あれからずーっと三田へまわりました。四国町に昔西村の祖母が住んでいて、向島のおばあさまと云いならわしていたのが、三田のおばあさまというのは馴染まなくて、妙だったのを覚えています。さつまっぱらというところで市電を下りて、歩いて行って左へ入ってそこの二階からは海が見えました。