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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
八月二十一日
八月二十一日 第五十七信
午後二時。今みんなは豊島園へ出かけました。パンのおやつを御持参で。私はひとり。これから仕事しなければならないのですけれど、何だかまだ、けさお話ししたりしたことが心にのこっていて。これをかきます。
ゆうべ、夜なか、雷が鳴って雨が降ったの御存じでしたろうか。部屋の灯をけしてあるから、あけてある窓のすき間から雨の音に混って稲妻の光が白い蚊帖の裾にさします。眠らないでその光を見ています。笑って二階へはあがって来たけれども、横になったらやっぱり苦しいの。腹も立たないし論判する気もしない。でも何という惨酷さでしょう。思えば思うほどそこに在る淵は深く暗い感じです。日々の生活に満足し、ほかに思うことがないからとそういうことを思う人間の心に、こんな底のない、むごい考えがあり得るというのは。胸に刃ものが突きさされていて、動くとそこから血が流れるの。急所をそれは刺しているのではないのだけれど、こういう刺しようもあるかと身動きが出来ないの。そして、稲妻が白い蚊帖に射すのを見ています。
段々躯がふるえて来ます。決して涙はこぼれないのよ、只躯がふるえます。