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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

四月十八日

(四)油で一番気に入っているのはこれだそうです。うしろの赤い城壁の色が目にのこって居ります。なかなか重厚です、が、というところあり、私の好みとして。画面に空気があるということは、絵でもなかなかなのですね。しみじみそう思った。空間のリズム、音響、そういうものが絵からつたわるのは大変なのね。小説と同じね。とかく後のものが前のものにくっついたりして。

四月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

四月十八日  第二十七信

今、夜の八時半。あなたはもうぐっすりおよっていらっしゃるでしょうか。それとも疲れすぎて眠れず眼が冴えていらっしゃるかしら。

私の夜の机の上には、買ってかえって来た白いライラックの房々とした花が柔かい青葉とともに、爽やかに奇麗です。きょうは帰りに、ああ花を買おう、と思いました。そういう気分でした。あなたにあげたい房々した花を自分の机の上にさせば、花はかすかに芳しい匂いを漂わせます。かえりに新しいいい花買う心持、これは一口に云えない私の感情の溢れた形ですね。そして、私はつくづく夕飯をたべながらも、かえりの道々も思いました、こんな心持についてはあなたにお礼を云わなけりゃいけない、と。