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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

けれども涙なんか出すほど本気で傾聴して「ほんとに僕は不思議と思う、だって姉さんはちっとも自分の得になりもしないのに、こんなに考えていてくれるんだもの。僕も二三日今の気持でいられたら、すこしは偉くなっているんだけれど、一晩ねるとケロリとしてしまうんだから困る」というのですものね。決して愚弄して云っているのではないのよ。本当に傾聴するのも本当だし、ケロリとするのも本当なの。女房は天下一品と云うのはうそではないのです。しかし、というのもうそではないの。ですから困ってしまう。十七八の頃からそういう二面性はつづいているのです。それにこの頃のあのひとの心には、自分の家庭はうちのこと、という感じだから、そんなに姉さんに世話をやいてもらわずといい。それより世話やかせないでくれればいい、というようなところでね。だって、あのひとは、父の遺族という名を何かにかかなければならなかったとき自分、おかみさん、太郎だけ三人かいて、寿や私は抹殺した感情ですから。これは何だか私に忘られない感じでのこって居ります。全般から来ているのです。何とも云えない強情さと妙な感情のつよさもあるから、私はまあ、こじらさないようにつきあってゆきます。