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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
なるたけ外出のときは一緒にゆきますしね。それから第一のちがうことは、一日のうちに何かにつけて、顕兄さん、顕治さんということが出てね。ごく自然に。わたしはすこしふざけて、自分だけの心持をこめて、「ひどい風! 御亭主さんどうしているんだろうね」などとも申します。これまで、こんな相手はなかったから。寿江子とは又ちがって。そしてね、これは又一層たべられたさをも誘うわけです。何かすこし家庭らしいのですもの。女中さん相手にばかりくらしていたのとくらべれば。それに多賀ちゃんはなかなか頭が早くて、私が林町に暮せない雰囲気やいろいろもうすっかり理解していますし。面白いでしょう? 私は今のうちの空気、大変味って居ります。何処かに私のしこりをほぐすものがあります。しこりがほぐれて、こまかいいろいろの腱だの筋だのがわかって来るような生活の感情は、やはり面白いし、ああこっていたと今にして思うところもあってね。多賀ちゃんでさえこう感じる、そのことを追って思ってゆけば、私がどんな情景を描くか不要多言で、その心も亦、大変きめのこまかい明暗にとんだものです。すっかりお分りになるでしょう? 私は自分のそういう明暗が、はっきりあなたの中にもてりかえしていて、わかっていると感じているのだから。