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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

そういう意味で、私はよく謹んで学んで、牛若丸になりたいのよ、過去と未来との間を自在にとび交いたいの。そういうつよい脚の弾力をもちたいの。その様を想像すればなかなか快いでしょう? かの子というひとは小さいすこし凸凹のある鏡台の前へぺったり坐って、自分の顔へこの色を彩って見たり、この隈どりをつけて見たりして、こわいだろう? こわいだろう? と自分におどしたり、いいだろう? きれいだろう? と自分をおだてたりした人です。その全体の姿はやはり面白いけれど、作品は一面にひどい通俗性をも持っていて。

ああきょうは何とどっさり喋りたいことがあるでしょう。十七日はどんな天気でしょう。うちに奇麗な花をたっぷりいけて、机の上にも奇麗な花をたっぷりいけて、そして詩集や戯曲集についてのお話いたしましょうね。私は居心地よくするのが割合に上手だったでしょう?

花の匂り、いい匂り。その匂りのなかに神経のほぐされてゆく気持、いい気持でしょう。暖く血がめぐるでしょう。おわかりになるかしら、私はあなたを丁度快適なほどに血のめぐりを暖くそして速くしてあげたいと、いつも思うのよ。休みにそれがなる程度に休ませないようにして上げたいの。