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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
五時に出かけるということのためにものが書けないの。
そのことばかり何ということなし思っていて。ふと気がついて、あら、自分はそれをこんなにたのしみにしているのかしら、そう思ったら、息がつまって胸がさけそうになりました。益※(二の字点、1-2-22)机にじっと向っていられない心持になって来て、小さい室の内を歩きまわり、そして、ふと柱にかかっている懸け鏡の前へ立ち止って、そこにうつる自分の顔を見つめました。ああ、ああ、この眼! この顔! おぼえず髪をおさえながら、噫、だめだ、だめだ、と自分に向って叫んだときの心持。しーんとした明るいすこし西日のさす仕事部屋。
自分のとらわれたものが何であるかがわかったときのおどろき、よろこび、重大さへの直感。そんなものを表現することも考えず出かけて行った夜の街。面白いわねえ。何て謙遜であったでしょう。
それでもねえ、そんな心の一方には、十六日に書いているような心の部分がきわめて自然発生の環境的なもののまま存在していて、やっと今、つかまれたりしているというのは、何という複雑さでしょう。私は、あの日(十六日)かえる道々大変その気持の変化について考えて居りました。