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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

わかったのでした。それもあったもんで、ユリが、自分の気持を合理化ばっかりしているようでは云々と、一昨日おっしゃったとき私は切なかったのよ。でもあとで又考えてね、切なく感じたなんて、やっぱりまだどこかで自分を劬っている根性があるんだナと思って。

あのときについて私は一つの大した疑問に逢着いたしましたが、大人の女のひとってものは、眼に涙が一杯でアブないときでもべそはかかないものなのかしら。可笑しくて、可笑しくて。不思議ねえ。だって、どんな小説だって、彼女は段々赤いふくれた顔になって来て、べそをかいて、涙を目にためたなんてかいてないわ。白いような顔を怨ずるが如くうち傾けて将にこぼれんとする涙をいっぱいに湛えた目で彼を見る、のよ。大変優艷なのよ、変ねえ。全く。私もどうかして、一度はそういう凄い涙の湛えぶりをしておめにかけたいものだと思いました。しかし或はそういうことにもやっぱり歴史性があるのかしら。あるのかもしれないわねえ。怨ずるが如く、という感情の土台がないと、べそになるのかしら。子供はどんな泣きを泣くときにもべそをかきます、何だかおもしろい。ちょいちょい泣くてを知っている女のひとは、いろんな涙の出しっぷりを修得しているのかもしれないわねえ。