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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

みぞれの街

一

みぞれの街

一

道場からあがり、汗みずくの稽古着をぬいでいると、秋田平八が来て「おめでとう」と云った。

「みごとだった。平手、みごとだったよ」

「今日は調子がよかったんだ」

「そうじゃない、実力だ」

「いや、今日は調子がよかったんだ」と、幹太郎は云った。

「しかし、なぜ先生は納屋さんとの勝負を一本で止めたんだろう」

「一本で充分だったのさ」

「そうは思えないんだが」

幹太郎は首をかしげたが、「汗をながして来る」と云い、下帯ひとつのまま手拭を持って裏へ出ていった。

掛札が筆頭から五枚までの者は汗を拭くのにも、風呂場を使うが、平手幹太郎は六枚目なので、平の門人と同じように、井戸端へ出なければならなかった。

――彼が出ていったとき、そこには六七人いて、彼を見るなり、口ぐちに祝いを述べながら、半(洗面用の盥)を持って来たり、水を汲んだりした。

秋田平八が「おめでとう」と云い、そこにいる内門人たちが祝いを述べたのには、理由があった。

毎年十二月の試合は、単なる月例試合ではなく『稽古おさめ』の式を兼ねているし、その成績によって、次の一年の席次がきめられるのである。

その日の試合に、幹太郎はめざましい腕をみせ、掛札の五人の幹部をみんな打ち込んだ。