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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

二

一つ……

終日食わず夜もすがら

寝覚めに思う益もなし

二つ……

ふた心なき武士の

一番槍にしおで首

三つ……

三度諫めて聞かざれば

腹に窓あけ死出の旅

二

芸妓は呼ばずに、お菊ちゃんが相手になって、二階でしばらく飲んでいた。桂と武市とは、泊まって、朝はやく帰ったが、も一人の若い侍の方は、いつ帰ったのか、雇人も知らなかった。

それから、四、五日過ぎて、十日の夕方だった。斧四郎旦那は、お喜代だの、露八だの、この前の時の顔に、堀の芸妓たちを連れて、浜中屋の裏の桟橋へ屋形船を着けた。

お菊ちゃんは、自分の家の船に、料理や酒を乗せて待っていたが、

「旦那、お養母さんの親しいお武家様が、ご一緒に行きたいというのですが、どうでしょうか」

「どこのお方だ」

「ご勅使の大原三位様のお供に従いていらっした桂さんという人です。とても、気軽で、吾家へは、書生時分から来ているので、まるで内輪の人なんですよ」

「そういう方なら」

と斧四郎旦那も、かえって、同行を欣んだ。

その日、武市は来ていなかった。桂ひとり、昼から来て飲んでいたのである。お菊ちゃんと一つ船に乗って、漕ぎ出した。「虫聴き」だの「千鳥聴き」