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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
日本を背負って立とうという意気と、女に稼がせて、台所を這いずっている男と、どっちに惚れるといやあ、お前さんだって、私の心変りを、無理たあ思やしますまい」
「じゃあ……汝は、心がわりをしたと、自分から、云うのだな」
「わからないの? ……この間からの私の素ぶりでも」
「分かっちゃいたが、まさか、まさか、今度は……と思ったのが俺の間違いだった。よし、俺も男だ、相手を云え」
「云わない方が、お前さんの気がかるいでしょう」
「吐かせッ」
「どうする気」
「どうしてもいいから云えっ」
「奇兵隊の河合さんさ」
「今、送ってきた奴か」
露八は、白い横顔を睨みつけてふるえていた。お蔦は、二本めの燗徳利を銅壺から上げて、茶碗へ注いだ。
いっぱい注いだところを、露八は横から取って、一息に飲んでしまった。そして、立ち上がりながら云った。
「よしっ、俺にも、覚悟がある」
二階へ、とんとんと駈けあがって行く。すぐ脇差を持って降りて来たのである。そして、もいちどお蔦へ向かって、
「奇兵隊の河合という野郎だな」
念を押した。
土間へ降りて、草履を片足ずつはきながら、また云った。
「畜生、生かしちゃおけねえ」