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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
二
――小御所会議、慶喜の下坂、大号令の発布、政権奉還の一決と、暗転から明転へと、さしもの紛争がすべて一直下に解決の曙光が見えてきてからの迎えなのである。
迎え役は、薩藩の大山格之助だった。薩艦春日丸は、衛兵一百人と、五藩の警士をのせて、維新の凱歌をのせながら、その途中、当然な儀礼として、五卿が一時匿われていた長州の土をふんだのであった。
長州藩では、藩の世子長門守が、迎えに出た。また、五卿慰労の春帆楼の一夕には、藩士の桂小五郎と、伊藤俊輔が、あいさつを述べに、伺候した。
「もう飲けん、もう飲けん。俺はまだ、用事を持っとるんじゃ」
桂は、わざと、酔ったふりをして、後を伊藤俊輔にまかせて席を逃げた。雪と雪洞の玄関から、ころげ込むように、駕にかくれて、
「関門屯所へ」
吩咐ると、
「桂さま。お寒うございますから――」
友禅柄の小蒲団をかかえて来て、駕の中の膝へ、着せてくれた女があった。
気がつかずに、
「はやくやれ」
促すと、
「また、どうぞ、お小座敷で」
駕のうちで、女の白い手が、自分の手を握っていた。
もう桂の勢力は、すばらしいものだった。
四、五年前の書生ッぽではない。