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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

四

ようっ、おいとナ

ヨイヨイ

沖イイの

くらいのオオに

かっぽれの芸術味はとにかく、その舞踊の勇壮さに、一座は沈黙した。すると、それが終わるのを待っていたように、突然、

「露八っ。屋根ぶねの提灯ッ――」

と、番外を、所望した客がある。

四

その日、露八もまた、幇間連の中に交じっていたのであるが、渋沢の顔が見えるし、桂小五郎(木戸孝允)も来ているし、こっちもまずいが先方もまずかろうと、なるべく、顔をつき会わさないようにしていたのだった。それなのに今、だしぬけに、東京では出したこともない隠し芸を望まれたので、ぎょっとして、声をかけた客の方を見ると、大隈の大輔と井上馨のあいだに挟まって胡坐をくんでいた伊藤俊輔であった。

(そうだ、馬関から乗った春日丸で――)

思いだしたが、空とぼけて、

「深川だよ」

次の音頭をとると、

「こらっ、屋根ぶねの提灯にせいっ」

また、呶鳴る。

破格なお見出しだ。

ほかの幇間連中は、むしろ羨望しながら、

「露八、踊った踊った」

突き出されたし、芸妓たちも、もう合の手を弾きだしたので、露八は、道化を一つ踊って次部屋へ逃げこんだ。すると、思い出したのであろう。