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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
二
残った三人は、
「うぬッ」
これは呼吸が合ってほとんど同時に庄次郎の脚をつかみ、一人は後ろから首を締め、一人は、横顔を三ツ四ツつづけさまに撲りかける。
ごろんと、一人がもンどり打って、庄次郎の髪が逆さに立った。そして、脚を持たれた男と同体に庄次郎も鳥居の下へ横ざまに倒れた。
「やりやがッたな!」
脇差を打ッ放して、跳びついてきた男の脛を、足業でパッと払って、自分は鮮やかに立っていた。庄次郎は爽快な熱さに顔を赤くしていた。自分の腕力に初めて自信をとりもどしたように、
「まだ参るかッ」
一喝すると、
「野郎ッ、忘れるなッ」
草履を拾って、禿安も他の者も、わらわら逃げてしまった。
今、渡舟を下りた人々だの往来の者は、彼の赤い顔へ、英雄を仰ぐような眼を瞠って、がやがやと称めていた。
それに気がつくと、庄次郎は、また、まごまごした。脚下に落ちていた畳み手拭を拾って懐中に入れると、間の悪そうな顔を反向けて、小梅村の家の方へ一目散に帰って行った。
二
どうしたのか、その晩も、お蔦は帰って来ない。
三味線棹が、壁に、鼻の下の長い自分を嘲っているように嫌に長く見える。衣桁に脱ぎすててあるふだん着の紅絹裏を見ても焦々する。