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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

(どこで寝ているのか?)

考えざるを得なかった。

「畜生、帰って来たら」

坊主枕を、投げつけて、自分の迂愚を嗤ったが、その怒りが、すぐ欣びの動悸になって、

「おや?」

蚊帳から首を出したのである。

「――お蔦かい?」

云うと、表の雨戸の外で、

「こん晩は。――こん晩は」

男の声であった。

ちと落胆しながら、

「誰だい」

「使い屋でございます。ちょっと、お開けなすって」

「使い屋? ……お蔦からの使いか」

「へい」

寝衣のまま起き出して、手さぐりで土間に降りると、蚊ばしらが、顔を打って、蚊が口に入る。

何気なく、

「ご苦労だな。ベッ……」

蚊を、舌の先から吐き出しながら、がらりと、開けると、

「うぬッ」

肋骨へ、いきなり、匕首だった。彼が除けて仰向けに倒れるのと、外の人間がかたまって躍りこんだのと、息一つの差がなかった。

「なぶり殺しにしろッ」

大刀と大刀の中から昼間の闘鶏師の声がする。仲間を糾合してきたと見えて、台所の戸も途端に外れていた。蚊帳の吊り手が落ちる、今戸焼の釜が砕ける。庄次郎の頭を掠めて一つの脇差は柱のこばへずしんと勢いよく斬りこんでいた。

「あっ、くそッ」