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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

四月十四日

こんな些細なような言葉でも内奥は深くて、いろいろ面白うございます。ねえ、わが芸術は拙なけれども、というよろこび、わが吹く笛はとその響きゆく果を感じられるよろこびというものは、これは全く単なる才能の問題ではないのですものね。

私はそのことを思って、思い極ったときは体が顫えるようです。私が作家としてもっている生活の条件、を思って。ああこれだけのファウンデーションと思うの、その上にもしわれらの楼閣をきずくことが出来ないとしたら、それは、果して複数で云える責任でしょうか。そう考えて、ね。私はせめて複数で云えるところ迄はこぎつけようと思う次第です。その漕ぎ方が、どうも原始的な二丁櫓ぐらいのところで、癪ねえ。まだ十八世紀の帆船迄発達していないようでいやねえ。バルザックは、ネルソンがトラファルガーで戦ったときの位の帆船よ、いろんな色の帆をはっているが。桜の花なんかと云い出して、ここへ納るところ、めでたし、めでたし。どうぞ私のおでこにおまじないを。

四月十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(柳瀬正夢個展より(一)「蒙古人」、(二)「水屋」、(三)「料理人」、(四)「合歓の花」