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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

今のような時流の間で、本当に芸術を未来に向って育ててゆく養分はコンテンポラリーには絶対にと云っていいほどありません。やはり、古典、自分、未来この三位一体しかないと思う。

そこで、たとえばトルストイの作品なんかでも、今の若いものは読みつづけられないのですって。何故でしょう。いろいろ考えたらトルストイの作品では、彼の人生観そのものの二元性分裂が映っていて、感性的なものと思想的なものが分裂していて、レーウィンにしろ、あんなにいやなカレーニンにしろ、考えるとなると議論になるのね。考えを考えとしてだけ開陳します。現代の人々の感性はうらなりながら或る立体性にあって感性が理性となる方向――その悪い例は感性の徴象化、今日の詩なんかの――にあって、トルストイが親しめないのね。私はなんだか、ここのところを大変面白い芸術の特殊性の一つだと思います。「鏡としてのトルストイ」には、こういう表現そのもののうちにあらわれている内容の本質はとりあげられていなかったと思って。古典は何だか、そういうところまでずーっと手をつっこんでつかまれなければならないのね。そういう風に古典にずっぷりと手をつっこめる或るものがなければ、結局未来への伸延力もないというわけで、ここの微妙な生活的モメントを実に実に面白く感じます。