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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
座談会は木々高太郎、奥むめを、私よ。『新女苑』。十時すぎ散会。かえりに目白駅まで送られて、そこで自動車をおりました。
写真屋の横からずっと入って、左へ行くところを右へぬけました。先のうちの前。門はしまって、寝しずまっている。月は中天にあるから濃い自分の影が足の前に落ちて居ります。そして街燈の灯はぼやけて、もっと大きい薄い私の影をすこし斜かいのところへ投げるので、砂利をふむ草履の音をききながら、あすこの道をゆく私には二つの影があるのよ。二つの影は何という感じを与えるでしょう! ブッテルブロードをもってかえっていらっしゃるあなたの影も二つあったのだと思います。胸の中で生きものがねじられるようです。そして、歩いて来たの。
特別な疲れかた故、多賀ちゃんが風呂をわかしておいてくれたのが本当にうれしく。ゆっくり入って、そして、思い出すの。何て夢中で入ったお湯だったろうと。床に入って薄くあかりつけて、なかなか眠りが来ず。しずかな寝息がきこえるようなのですもの。凝っとその寝息の感じを聴いていて、又胸の中の生きものが体をねじるのを感じます。そして、バロックの装飾に、アトラスが下半身は螺旋の柱によじられた形でつかってあるのなどを思い出し、そういう様式化のなかに何という残酷さがひそんでいるのだろうなどと考えます。