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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
きょうは、あれから十一時すぎ十二時十分前位まで宅下げ待って、それから富士見町へまわりました。九段下へバスが池袋から出ているのよ、東京駅行。そこから九段の坂をのぼって行ったら、パラパラ降って来ました。いそいで富士見町の方へ曲って家へ辿りついたら先生オーバーを着て出かけるところ。あたふたしていて、二階へ上り、一応勘定書についての説明をきき、それからついマナイタ橋の横だから思い切って金星堂へよりました。そしたらうけもっている人恐縮し切ってちぢくまっているの、可哀想に。あすこでは興亜書房とか云って一方で赤本出しているのですって。紙は紙やからのおあてがいなのですって。間には(九月から)一冊あの本(あなたのおっしゃっていたの)を出したきりの由。その本というのは、戦傷して腰から下が全く失われた人に同情して嫁した看護婦の人の手記なのですって。そのときはいろいろ美談でしたが、実はその結婚について女のひとが、いろいろ家庭の事情に支配されていたということがあって、寧ろ気の毒に思う人もあった、その人の手記なのですって。わるい流行ね。なぜ嘘をつかせるのでしょう、幾重にも。