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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

二十人ばかりで、駈けてきた。

追いまわされて、露八は、銃尻で撲りつけられた。言い訳は、一つも聞かれなかった。

「こいつ、江戸弁じゃ、長藩に、弟がいるなどとは、嘘の皮、撲って、泥を吐かせろ」

どう弁解しても、駄目なのだった。幕兵とちがって、連日、戦に勝っている驕兵だし、肩の錦布が、めずらしくて、誇りがましくて、犬にも威張ってみたいような薩摩兵の群れであった。

「云わんかッ」

「斥候じゃろう、わいは」

「こやつ」

「なぜ、もの吐かさん」

蹴る、撲る。銃の尻で、腰ぼねをどやされたときには、我慢しきれないで、

「痛いっ」

と、跳び上がった。

「痛いか、江戸のやつも、人間なみに、痛いというぞ」

中には、ぺっと彼の顔に、唾をして罵るのもいた。

「わいら、江戸っ子の、関東武士のと、ふだん大口たたきおるくせに、その態、なんじゃ」

「この、生まれ損ない」

「死に損ないめが」

無数の土足が、露八の体を、もう痛いとも痒いとも感じないほど弄んだ。露八の血は、逆さになった徳利のように、頭へのぼってしまった。唇はやぶれ、鼻は傷ついている。鼻腔でだけ呼吸をして、眼がかすんで、相手の数も顔もよく見えないために、わざと大きく瞠っているように眸がひらいてしまった。