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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

「…………」

「ところがこんど再び、兵部省付きの権少輔に栄転し、海外派遣を仰せつけられたのです。そこへ、渋沢様がみえて、ちょうど今日は、君の兄も宴席へ来るわけだから、出発する前に会って行ったらよかろうというご好意で、実は、出向いて参りました。……どうか欣んでください、私は、だんだんと、新政府にも重用され、国家のため身を殉じるつもりでおります。微力ですが、兄上とても、いつまでかような職業をさせてはおかんつもりです。渋沢様にも、懇々、お願いしてありますから、私の帰朝をまたず、そのうちによいご運がひらかれましょう。自暴自棄をつつしんで下さい」

云い終わるのを待って、露八は、呶鳴った。

「うるさいっ」

「はっ」

「――弟っ」

「どうなさいましたか」

「どうするかっ。誰が、そんなことをてめえに頼んだかっ」

「はい」

「笑わすな。……ふふん、笑わすなってんだ。馬鹿め」

「兄上、な、なんでそんなに」

「手を出すなっ。――おらあ、そんな冷やっこい手に握られたくねえ、な、なぜ、ご一新となったならば、飛んで来て、手を握ってくれなかった。そんなに、出世したいかっ」

「でも」

「だまれ、俺から訪ねてゆくのは知っている。