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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

彼の手から噴いた白い光は、人間の脛にこつんと当たった。その隙に、薪のような物が、彼の後頭部を撲った。猛然と、蚊帳を踏んで躍り立つと、庄次郎の巨きな体は、敵を威圧するに役立って、五、六人は台所の方へ、四、五人は表口の外へ、半分ずつ分かれて退いた。

「火を放けるぞっ」

「男らしく、素ッ首を出すか、立ち腹を切るか」

罵ることによって、先頃からの鬱憤と仲間の意趣をはらすように、つらね科白で裏表から云うのだった。

「汝ッ方のような、青侍に、カスを喰って泣き寝入りをするような闘鶏師たあ、闘鶏師がちがう」

「江戸にだけでも二、三百、駿府、甲府、上州と、仲間の眼だけが集まりゃ、旗本の一軒や二軒、屋台骨を揺り潰すぐれいなことは朝飯前だ」

「うぬを片づけてから、武島町の古屋敷も、たたき潰してやらなけれやあ、闘鶏師の面がたたねえ」

「舌でも噛め、後は、火葬にして、こんがり、焼いてやらあ」

ばりばりッと、家の中で凄まじい音がした。逃がすなっ――と彼らが家の横へ迫ったときには、庄次郎はもう竹窓を破って飛び出していた。

大刀と、棒と、匕首とが、挟撃して喚き立った。庄次郎は眼の中へ流れこむ汗を怺えて善戦したが、相手の数は少しも減らなかった。