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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
という冒頭で。うれしい五月の日、芳しい草原のなかの若い樫の木は、いのちに溢れて気品たかく、しかも天真に、一つの泉に向って挨拶しようと、ゆたかな梢をもたげつつ、燃ゆる緑の小旗をかかげます。緑の小旗は、日光にきらめき、風にゆれ、何と強靭に美しく、はためいているでしょう。泉は溢れるしぶきで、珠のかざりをつけながら、ふきあげふきあげて、梢の挨拶にこたえるのですが、泉は地のもので、そこに在るしか在りようがないという自然の微妙さに制約されているのです。この泉の自然への従順さと歎きとは非常に幽婉な趣きで語られていて、本当に面白い。緑の梢の意欲は泉につたわって、波紋となり、益※(二の字点、1-2-22)しげい水しぶきとなるのです。梢はその波紋を遠く近くとりかえされて緑の波濤のように自身を充実させます。日は高く、泉の白さ、梢の緑と光線の金色の諧調が、かけるもののない空気のうちに満ちる様子。
泉の自然の制約をそれなり美と感じ、しかも歎くこころをうたった数節は、ゲーテの卓抜な抒情詩にまさると私は思います。美しさは人類ととものもので、しかもその細部では質的にさまざまのニュアンスを深めるところは、云いつくせない味いです。