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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
切符を役場へもってゆかなければなりませんし。若い二人は昨夜十一時頃旅行からかえりました。宿に電話しておいてよかった、以前とはまるでちがった人のこみかただったと達ちゃん大満足でした。花嫁も大分なれて達ちゃんにも口をきくようになりました、人の前で。今、お母さんと、肥料の切符の整理をして居ります、それをうちの帖面にひかえておいて届けるのです。いろんなそんな事務がふえて、この頃のは商売ではなくて事務だということになって来ているのがよく分ります。
私はサッカレの「虚栄の市」をポチポチよんで第四巻までの終り。一八一二年ナポレオンの退散前後のことをかいていて、トルストイの小説を自然思い合わせ、イギリスのリアリズムというものを考えます。この「ヴァニティ・フェア」は面白い、極めてイギリスらしい小説です。こんなイギリスらしい小説の世界というものは二十世紀の初頭以後はなくなっていますね。サッカレの諷刺とゴーゴリの諷刺との性質の相異も感じます。サッカレのは諷刺においてもイギリス風よ。バーナード・ショウのつよい常識が偏見に対して一つの諷刺として存在しているように当時の英国新興ブルジョア気質、貴族崇拝に対して、サッカレの明るい眼と平静な心が、現実のものを見ていて、それが諷刺となっているというわけに思えます。