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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

そう考えると一層異様です。私はほんとに何となしそれから先へ、行くところへ誘いましたね。どうして誘ったのでしょう、どうして何となしいらしたでしょう。

きょうの漫歩はあつい漫歩であったけれど、そのあついという字にどの字をあてはめたらいいのでしょう。炎天の下に秋の夕暮の靄が湧いて、そのなかに自分たちであって今の自分たちではない、自分たちの姿を見る白昼の街は独特の趣でした。

誰かが冗談のように電車代だと云って十四銭くれて、私も笑いながら「これ上げるわ」と十銭だまを掌へあげて、まるでさっさと「じゃさよなら」と別れました。でもどうして、まるでさっさと別れたことを、こんなにはっきり知っているのでしょう。

膝の上の例の袋には、冨美子のお土産に三田通の青柳で買ったもなかが入っています。省線のとなりにかけた女の子が、ぐるりとエビスをまわるものだから「この電車新宿へ行きますかしら」と心配そうに訊きます。

エビスのよこのビール会社の空地にビンの丘があって、西日にキラリと光りました。ああ、こんなにあっても足りないのかな、と感心したりして。この頃はソースにしろカルピスにしろ、ビールはもちろん、ビンなしでは買えませんから。