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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
大変奇妙な経験でした。けれども、こんなテーマはテーマの本質をとらえているものの間で話題になるべき種類のことではありませんから、私は黙っていたわけでした。
本当に変な心持ね。「ようして貰うから、まさか云えん」というようなことが、自然に一方ではっきりと考えられているというのは。
林町のものに向って私は、昔から、人間は理性をもった生きものであるという点から話して来ました。その明瞭な方法よりも、いろんな事や物や場合やを通じて人柄からひろがってゆく解説の方がふさわしいだろうと思って、その点私たちは相当根気よかったと思います。この何年かの間のそんな心くばりは、何の実質にも吸収されていないのね。してくれるからして貰っておく、それだけなのね、結局のところ。「よく気がつく」「云うことは立派なもんじゃ」その他等々はそれなのだからと素直な結論にゆかないで、それだのにどうこうなのは、こうであろうか、ああだろうか、という頭の働かせかたに導く糸口として役立つというのは、こわいような感じですね。情愛とは何でしょう。不思議な推測の形は、きっと年を重ねるにつれてくりかえされて、そのことから固定された観念のようになってゆくかもしれません。