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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

寝ることも出来なかったし、歩く力もないようになって、夜じゅう何か畳の上を膝で居ざって歩いていた、はーっと時々苦しい息をつきながら。

一生忘れない夜であると思います。スタンドが何とギラギラ明るかったでしょう。自分に対する何という口おしさだったでしょう。

その苦しさが肉体のなかに甦って来て、しぼるような感じです。

私がある一人の女のひとの真にいたましい悲劇を、しんから思いやり、苦悩の過程を辿ることが出来るのはああいう一夜のためですね。そう思います。そして、こういう苦しさは、どこにもあなたの妻であるということからの救いはないのよ。おわかりになって? あなたにかかわりない全然私のくちおしさ、苦痛であって、しかも、ことの結果があらわれれば完全にあなたの上にあらわされるということで、堪えるに堪えがたい苦痛がまさるのです。何という気持でしょうねえ。何という気持だったでしょう。ああ、といきなりは、生きていられない、という風に思います。それだと云ってどうするのだろう、つづいてそう考える。自分をそのことによってあなたから切りはなされたものと感じ、しかもそんなおそろしい孤独の状態の中から、全く密接に大事なものにかかわってゆくいきさつがまざまざと見えている。