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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
女の生涯には幾度女としての誕生があるでしょうか。女の性格のうちには更に新しい何ものかが開花されました。感覚の豊饒さが加えられました。新しい命へつらぬく良人への愛、新たな生命へ溢れる自分たちの命の美しさ。その昏倒的な美さのために、女は幾つもの夜々を眠りません。その夜々のうちに女は半ば可愛らしいものを自分のうちに感じるようになっているほどです。その春の嵐のさきぶれは、そのように重く生命の樹々を揺りながら、やがて雲が段々動いて、遠のいて、小さくなって、すぎ去りました。もとのような見なれた空となりました。しかし、女はもうもとの女ではないのよ。元にはもどれないのよ。そこには一つの誕生が経過されたのですから。
しかし、女はそのような自身の開花を人生において無駄花とは感じていないのです。どういう事情であろうとも花ならば一杯に咲きひらかなければなりません。そこにそのものの自然なよろこびがあるのですから。けれども、花の嘆きも亦何と面白いでしょう。花粉に出合わなければならない花の嘆きの面白さ。その女は、天然が女である自分のなかにもう一つのみのりの可能性として与えているものを力一杯にみのらせようと一層熱心に思いはじめます。