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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

久しぶりで海の近くの空気の心地よさ。その小原さんという娘さんは、丁度おなかをこわした後だと云って一層やつれていて、そのやつれた顔をほころばしてよろこんでくれました。すこし散歩したりしてかえって来たら雨。ああよく降って来たというわけで、九時頃鵠沼ホテルというのへ行って午後に話しておいた部屋へ上りました。いかがかと思ったが、笑ってしまって。というのは、その部屋はね、ホテルですからね、何しろ。安アパート式に西洋窓で、大きいワードローブが突立っていて、天井は白、羽目は板、間の壁は薄桃色という、つまりお祝の鳥の子餅の箱の中に入ったようなの。でもいいや、ね。とそれから入浴し、その風呂はいい心持。そして次の間に床をとったのを見たら、スタンドは気がきいているが、そこもアパートなの。そして、その主人が茶気たっぷりできっと天蓋つきの Bed を置こうとしたと見えて、天井から枠が宙に下って来ているというわけです。

でもいい心持に手足のばして眠って、きょうは特別とおそくまで床の中にいて、それから朝食をたべ、本をすこしよみ、正午近くパンを買って、又そのひとの室へ行きました。