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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

男たちは支度を終り、卑屈におじぎをしながら、なにやら詫び言を云い云い、すばやく上り框のほうへ出ていった。

「お豊、おまえは本当に出てゆくのか」と、幹太郎が云った。

「出てっちゃ悪いの」

「おちつけ、おちついて考えてみろ、おまえが四つ目裏から逃げだしたときのことを忘れたのか」

「そこを、とおしてよ」と、お豊が云った、「あのとき逃げだしたのは間違いだったんだわ、あたし平手さんのこと思い違いをしたの、平手さんがあたしを好きで、いっしょに逃げればおかみさんにしてくれるかと思ったのよ、でもあんたはあたしが好きじゃないし、いつまで経っても固っ苦しいことばかり云うし、あたしにゃ、もう辛抱ができなくなった、あんたと逃げたのが間違いだったってことが、はっきりわかったのよ」

「おまえは酔ってるんだ」

「あたしをとおしてちょうだい」

「とにかく、今夜は待て」と、幹太郎はお豊の肩を押えた、「出てゆくにしてもよく考えてからにしろ、今夜は寝て酔いをさましてから」

「あたしに触らないでよ」

「お豊、私の云うことを聞け」

お豊は「うるさいわよ」と叫び、いきなり幹太郎の頬を打った。ぴしっという高い音がし、幹太郎はお豊の肩から手を放した。