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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

「道場の面目のためです」

孝之助はそう云いながら、自分の竹刀を取り、道場の中央へ出て来た。

このあいだに、門人たちはめいめいの膳や徳利を持って、不安そうに隅のほうへ片寄った。十左と平八とは、なおその試合を止めようとしたが、二人はもう左右に別れ、相い正眼に構えて動かなかった。

幹太郎は、二度、三度と、大喝した。

「やるなら尋常にやれ」と、十左が叫んだ。

「乱暴はならんぞ」

幹太郎はまた一喝した。

二人とも道具を着けていない。そして、両者とも逆上していた。二人が逆上していることは、誰の眼にもわかった。

孝之助が絶叫し、床板を踏みならして打ちこんだ。

真向から左の胴へ切返すもので、彼のもっとも得意な手であった。だが幹太郎はその逆をいった。孝之助の竹刀が胴へ切返すより一瞬早く、幹太郎の竹刀の尖端が相手の額を突き、ついでその鍔を返し、火の出るような体当りをくれながら、相手の顎を突きあげた。

孝之助は仰向けに顛倒した。

殆んど丸太を倒すようで、床板を打つ後頭骨の音が、みんなの耳にぞっとするほどはっきりと聞えた。

孝之助の口から血がながれだし、起き直ろうともがいたが、そのまま動かなくなった。