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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

まして相手がそういう淫奔な女だとすれば」

「そこもとはどうだ」と、頼母が遮った。幹太郎は口をつぐんだ。頼母は静かに云った。

「そこもとの話によると、お豊というその女も尋常な性分ではないようだ。私の聞いたところでは、そして、これはかなりたしかなことらしいが、お豊はしばしば近所の男をひきいれて、いかがわしい行いをしていたという、そこもとは、二十歳ではないかもしれない、だが、酒も飲まず遊蕩もしないそうだ、それでもお豊とは、かかわりがなかったというではないか」

「もちろん、そんな関係はありません」

「どうしてだ」

「それは――しかし、私のばあいは違います」

「ではそこもとが、野口の立場にいたとしたら、やはり誘惑に負けると思うか」

幹太郎は口をつぐんだ。

「人間は条件によって、左右されるものではない」と、頼母は続けた、「こんどの辞任についても同じことが云えると思う、師範の地位を去るということは、さぞ不本意であろう、私にもそれはわかる、だが、この地位にとどまろうと去ろうと、そこもとの本質には関係はないだろう、もしこれによって、そこもとが失望したり、自暴自棄になったりするとしたら、それは辞任という条件のためではなく、そこもと自身の本質によるのだ」