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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

或日、――それはほぼ一年くらい経ったときのことであるが、道場へ他流試合を申込んで来た者があった。

「筑後柳河藩の大石という者だ」と、その男はいった。

道場の人たちは、いろめき立った。大石進はそのとき三十二歳、豪放な太刀さばきで知られていたし『道場やぶり』をすることでも評判が高かった。

――もしここへ来たら。

と、千葉道場の人たちは云いあっていた。ここへやって来たら『道場やぶり』などというしゃれたまねはさせないぞ。そういいあっていたので、その人が来たと聞くと、みんな『すわこそ』と眼を見交わした。

ちょうど周作の留守であった。

――誰が出る。

栄次郎を中心に人選をした。みんな自分が出たいらしい、平手深喜は新参なので黙っていると、気の早い海保帆平がとびだした。

だが帆平は負けた。

次に井上八郎が出、稲垣定之助が出た。そして二人が簡単に負けると、初めて深喜が立ちあがり、「お願いします」と栄次郎に云った。まだ庄司弁吉と大羽藤蔵がいる。最後には栄次郎が自分が出るつもりだろう。だが、彼は深喜に頷いて「むりをするなよ」と囁いた。

大石は意気軒昂だった。

三人と勝負したのに、少しも疲れたようすがないし、呼吸も変ってはいない。