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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
の話が出、海保帆平が奇矯なことを云いだしたので、食事の済んだ膳を前に、じっと坐って聞いていた。
「大塩は当代の義人だ」と、帆平は云った。
大塩平八郎とその同志たちは、世の不正不義を糺すために身命をなげうった。自分のためではない、一身一族の栄辱を捨て、最大多数の民百姓のため、天下の政道をよくするために、あえて賊名を負って死んだのだ。
大塩の先祖は、岡崎時代から徳川氏に仕え、彼の祖父は尾張家の家臣であって、さらに大坂城代付きの与力に転じた。いわば、徳川恩顧の士であるのに、そのうえ陽明学者として高い識見があるのにしかもなお、彼は断乎として幕府に矢を引いた。
「おれたちは、この事実を正視しなければならない」と、帆平は云った。
大塩は政治の腐敗と、世道の紊乱が、なんに由来するかを檄文で書いている。「――天子は足利家以来、別して御隠居御同様、賞罰の柄を御失い候につき」これである。かつて明和のころ、山県大弐はその著『柳子新論』のなかで位禄を分つことが天下の乱れるもとである、と云った。朝廷は諸臣に位階を与えるだけ、政治の実権は幕府の手にある。これではやがて天下は崩壊するだろう、というのであった。