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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
と云ったが、栄次郎はじめ、ほかの者が知らん顔をしているので、それ以上とめようとはしなかった。
「こいつ、おれを侮辱したな」
帆平は片膝を立てた。
「なにが侮辱です」
「いまの言葉は侮辱だ」
「臆病者とか卑怯者とか云うよりもですか」
「こいつ新参者のくせに」と、帆平はとびあがって叫んだ、「勘弁ならん、道場へ出ろ」
「それはよしましょう、貴方は酔っている」
「道場へ出ろ」
と、帆平は絶叫し、大股に近よって、深喜の肩を小突いた。
深喜は躯を捻ってその手をよけたが、静かに立ちあがって、「皆さんお聞きのとおりです」と云った、やむを得ないと思いますが、いいでしょうか、――だが、誰もなにも云わなかった。
栄次郎はそっぽを向いているし、庄司弁吉は「やれやれ」と云わんばかりに、深喜に向って顎をしゃくっていた。
帆平は「来い」と叫んで、いさましくとびだしてゆき、深喜もそのあとからついていった。
すると、二人のうしろから庄司弁吉が、手燭を持って追いつき、道場の要所要所へ灯を点じながら「よさないか」とか「穏やかに話したらどうだ」などと、制止するよりも、けしかけるような調子で、うわのそらなことを、せかせかと云った。