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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

「知らない、聞いたけど覚えてないよ」

「病気というのは、嘘だろう」

「嘘なんかつかないよ、本当に病気なんだ、河内屋の旦那が湯治にゆけっていうんだけど、どうせ死ぬものなら江戸で死にたいって、医者もずいぶん云うんだけども、どうしてもきかないんだよ」

「寝たっきりなのか」

「寝てなければいけないのに、すぐ起きちゃうんだ、二度も血を吐いたんだよ」

深喜は、じっと幸助の顔をみつめた。

――嘘ではないらしいな。

二度も血を吐いた、というのがあまりに突然で思いがけなかったし、そこまで嘘を拵えるとも考えられなかった。

「いまどこにいるんだ」

「深川の佐賀町だよ」

「河内屋の旦那と云ったが、その人の世話になっているのか」

「うん、旦那はいい人だよ」

幸助は口早に説明した。

河内屋は、本所緑町に店のある質両替商の老舗で、富十郎という隠居が、道楽に一中節の稽古所を持っている。もちろん、ちゃんとした師匠が定った稽古日に来て教えるのだが、その他の日は隠居が教えている。お豊も本所にいたじぶん、気まぐれにしばらく稽古所へかよった。

お豊はほんの気まぐれだったが、隠居の富十郎はすっかり乗り気になった。