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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

「うれしいわ」と、お豊は深喜の顔を見るなり云って、あざやかに、眼のまわりをぼっと染めた。

「来て下すったのね、あたし来て下さらないかと思っていたのよ、うれしいわ」

たて続けにいいながら、長襦袢の袖口で眼を押えた。

お豊は夜具の上に坐っていた。その夜具は大きく厚く、嬌かしい色のもので、脇に小さな茶箪笥と長火鉢があるため、深喜は坐り場に困った。お豊もそれに気がつき、あらごめんなさいと、立って夜具を裾のほうからたたみ、納戸から座蒲団を出して、長火鉢の横へ置いた。

「あのときのことは堪忍して下さい」

深喜が坐ると、お豊は手をついていった。

「済んだことは忘れよう」と、深喜が云った、「幸坊からあらまし聞いたが、起きていていいのか」

「いまお医者さんが来て帰ったところなんです、寝ていろってうるさく云われるんですけれど、どこも痛くもなんともないのに寝ているなんて辛いんですよ」

「どこが悪いんだ」

「労咳でしょ、医者はそう云わないけれど、あたしにはわかっているんです」

「いけないな――」

深喜は、呟くように云った。

お豊は、ずっとおとなびている。顔色もいいし、痩せたようにもみえない。