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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
深喜はそう思って、ひどく不愉快な気持になった。
平八が訪ねて来たのは、そういうときであった。稽古を終って自分の部屋へ入り、夕飯を運ばれるまでの一刻、小机に凭れて、鬱陶しいもの思いにとらわれていると、少年が彼の来訪を告げに来た。
「それは珍しい」と、深喜はすぐ立った。
平八とは暫く会わないし、彼のほうで道場へ訪ねて来たのは初めてである。ちょうど気持がくさっていたところなので、自分で脇玄関まで出迎え「客膳を頼むぞ」と少年に命じていっしょに部屋へ戻った。
秋田平八は、おちつかないようすで、坐ってからも話がはずまず、深喜の云うことを、聞き違えたり、取って付けるように笑ったりした。そうして、やがて「今日は、ちょっと話したいことがある」と云いだした。
「いま飯が来る。食べてから聞こう」と深喜は云った。
食事は一汁一菜と定っているが客膳には、なにかほかに一と皿付く、そのとき平八の膳には、なにかの切身の照焼が付いていた。
淵辺道場のほうはどうだ、と深喜が話しかけた。相変らずだ、やっぱり思わしくない。そうか、それはいけないな。うん、いちじはもち直すかと思ったが、このごろは淵辺さんも投げているようだ、と平八は云った。