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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

と、子供が云った。幹太郎はそれをそらすように、両側の長屋へ顎をしゃくった。

「こっちも向うも、みんな空店のようだな」

「うん、不景気だからな」

「不景気で引越したのか」

「そうでなくってよ」と、子供は云って、水洟を横撫でにして、「人足に出たって仕事なんぞ、ろくにありやしねえ、番札で働きに出るのが五日に一度くれえだ、それで五合の米が百文するんだから、女房、子のある者は江戸じゃあ食えねえ、田舎のある者はみんな田舎へ帰っちまうさ」

「坊やの家では帰らないのか」

「おじさんはどうだい」

と、子供は云った。幹太郎は苦笑した。

――おそろしくませた子供だ。

と、彼は心のなかで思った。子供は妙な咳をし、幹太郎の差している刀をちらちらと見ながら、ふと低い声で云った。

「こんな処に立っていられちゃ困るんだがな、おじさん」

「どうして」

「どうしてでもさ、やまねえとわかってるのに、雨宿りをしていてもしようがねえ、どこかほかへいってくれねえかな」

「どうして此処にいてはいけないんだ」子供は警戒するように幹太郎を見、それから、「おじさん町方じゃねえのかい」と云った。幹太郎は首を振った。

路地口に人の足音がし、なにか話しながら、どぶ板を踏んで人がこっちへ来た。