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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

幹太郎が振返ってみると、古い蛇ノ目傘をさした娘と、頭から半纒をかぶった男との二人づれで、それを見るなり、子供がまた幹太郎に云った。

「ほかへいったほうがいいよ、おじさん、あのあにいはちょっとうるさいぜ」

「長、客か」と、その娘がこっちへ来ながら云った。

長と呼ばれた子供はかぶっていた油紙をとり、鉢のひらいた頭を横に振った。

「雨宿りをしているんだ」

「雨宿りだって」と、伴れの男が云った。

二人はそこへ来て、敵意のある眼で、じろりと彼を見た。

「お武家さん、なにか用でもあるんですか」と、男が云った。

三十二三で、左の眼尻から頬へかけて、べったりと青痣があり、眼に陰険な光がある。

色の褪めた紺の長半纒に、色鼻緒のぺしゃんこな女下駄をはいていた。

「いま子供の云ったとおりだ」と、幹太郎は答えた。

「すると本当に雨宿りですか」

幹太郎は頷いた。

男は笑いもせずに云った。

「じゃあ済みませんが、ほかへいって下さいませんか」

「此処では悪いか」

「だから頼んでいるんだ」と、男が嘲笑するように云った。

「こんな処に立ってたって、この雨はやみアしねえ、表通りなら往来があるから、拾ってってくれるような茶人があるかもしれませんぜ」