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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

この年まで生きていると、数えきれないほど見たり聞いたりして来ました、妙なもんだ、しかし、これが世の中だ……いまではそう思うようになりました、枯れる木は枯れるってな、しかし妙なもんだと思いますよ」

老人の言葉には、なんの意味もなかった。深喜に聞かせるためではなく、独り言を云っているようであった。

だが、深喜は、しだいに気がおちつき、昂奮が、しずまるのを感じた。老人の淡々とした話しぶりを聞いているうちに、

「おれはこれからだ」と、心のなかで思った。

「枯れる木は枯れるか」

そうかもしれない。しかし枯れるまで生きているのだ。どんな木も、いつかは枯れるし、人間もいつかは死ぬ。だが、死ぬまで生きるのだ。おれの一生も終ったのではなく、始まったばかりだ。おれは、まいらないぞ、このくらいのことで、まいるような人間じゃないぞ。

もっと悪い事が起これ、どんな困難にも、耐えぬいてみせるぞ、と深喜は心のなかで叫び、老人に振返って「その提灯を持とう」と云い、提灯を受取ると、明るい調子で云った。

「せっかくだから休ませてもらうよ、爺さん」

二人は暗い街を歩み去った。