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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

「もうちっと向うの、箪笥町の裏店ですが、いかがですかな、夜の明けるまで休んでおいでになりませんか」

深喜は眼がじーんと熱くなるのを感じた。

「今夜は、私の甥の初七日でございましてな」と、老人は歩きながら云った、「腕のいい指物師で、年は二十八でしたよ、男っぷりがいいもんですから、ずいぶん娘っ子に騒がれたもんですが、仕事のほうに夢中でいろごとなんぞには見向きもしませんでした、それが貴方、ぽっくり死んだんですから、ええ、仕事をしていて、いきなり血を吐いて、えらく吐いたそうですが、医者が来たときには、もう息がなかったってえ始末で……親たちは、おふくろというのが私の末の妹なんで、今夜なんぞも、まだばかのようになってました」

老人は咳をし、頭巾のぐあいを直した。

「妙なもんです、まったく妙なもんですよ」と、老人は続けた、「死んだ甥の友達で飲む打つ買うの、しようのない極道者が、いたんですが、これがまた、どうしたはずみか、町内の金持の娘に惚れられましてな。嘘のような話ですが、二年前にその家へ婿におさまりました、その後のことは知りませんがな……甥のほうは仕事一本槍、酒も飲まず女あそびもせずで、そんなふうにぽっくり死んじまう、友達の極道者は、さんざっぱら好きなことをしたあげく、ひょいと金持の婿におさまる――こんなふうなことは、