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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
安は妙な声をあげ、足をばたばたさせながら、千間川の中へ頭から落ちこんだ。
幹太郎は振向いた。
本野という浪人は、刀の柄にかけていた手を放して、顔を歪めながら「後悔するぞ」と云い、そろそろと、うしろへさがった。
「もし貴公が正直な人間なら、あとできっと後悔するぞ」
そして、安を助けるために、川の岸のほうへ走っていった。
幹太郎は大股にそこを去った。千間川は浅いが底は泥で、『てっぽう安』は頭から泥まみれになり、本野に助けてもらいながら、岸へ這いあがった。幹太郎は歩きながら三度ばかり振返って、そのようすを見てふきだしそうになった。左右の岸にも(ずっとはなれて)かなりな人が立って眺めている。這いあがった安が、その人たちに向って、なにか悪態をついているようであった。
――貴公が正直な人間なら後悔するぞ。
本野という浪人者の言葉が、ふしぎに幹太郎の頭に残った。
――どういう意味だろう。
娘ひとりを食いものにしようという人間ではないか、なんの意味があるものか、そう否定しながら、しかも、ふしぎにその言葉は彼の頭に残った。
天神橋を渡って、河岸ぞいにゆくと、右手に太宰府天満宮の裏門が見え、門に向って曲る左右に、茶屋が並んでいる。