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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

なかには二階造りの、料理茶屋を兼ねた家もあって『島屋』というのもそういう家であった。――淵辺の道場にいたころ年に二度か三度は、他の門人たちと来ていた。参詣は名目でみんな飲み食いや遊ぶのがめあてであり、酌に出る女のなかには、いかがわしい者もいるようであった。幹太郎は酒を飲まないし、悪くふざけるようなこともないので、お兼という女主人や、女中がしらのお杉などに好かれ、

――こんどは一人でいらっしゃいな。

などと、よく云われたものであった。

門のほうへ曲ると、右手の茶屋の軒下に、お豊と幸坊がより添って立っていた。『島屋』へ行ったが、家が大きいので、はいりそびれたらしい。幹太郎を見ると、二人ともほっとしたように駈けだして来た。

「どうした……」と、お豊がさぐるような眼で、彼を見た。幹太郎はそれには答えず、歩きながら向うを指さして、「あの家だ」と云った。

「二人ともやっちゃったかい、おじさん」と、幸坊が訊いた。

幹太郎はそれにも答えず、おまえ長という名もあるのか、と訊いた。あるさ、と子供は歩きながら云った。いっぱし遊び人なら二つ名前のあるのが本当じゃあねえか。ほうおまえ遊び人か、と幹太郎が笑った。