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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

東吾は黙らなかった。

「このまえは、だいぶ勇壮だったそうじゃないか、あとで聞いて吃驚したよ」と、彼は云った。両者の間隔は、もう九尺ばかりにちぢまってい、幹太郎は構わず歩いていった。

「おれがいたら、そうはさせなかったんだ、納屋さんも加減したんだろうがね」と、東吾は云った。

「おれは飲みに出ちゃったんだ、飲みに出なければ逆に肋骨の二三本は叩き折ってやったんだが」

「悪く思わないでくれ」と、村田市之丞が云った。

「このとおり酔っているんだ」

「おれは酔っても腕まで酔いはしないぞ、おい平手」

「よせ川地!」と、納屋が制止した。

幹太郎は(お豊と幸坊を伴れたまま)かれらの脇を通りすぎた。

――ばかな酔いどれだ。

幹太郎はそう思った。

そのとき、うしろで「やい、野良犬」と喚くのが聞えた。その女はなんだ、野良犬、と東吾が喚き続けた。きさまは女衒でも始めたのか、きさまは女で食うほどおちぶれたのか、と喚くのが聞えた。

「なにさ、あのさんぴんは」と、お豊は立停った。

「いいよ、酒乱なんだ」云わせておけ、と幹太郎はお豊に云い『島屋』の店へはいった。

店には誰もいなかった。

いま三人を送りだして、みんな奥へひっこんだところらしい。