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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

幹太郎は二度、三度、声をあげて呼んだ。すぐ右手にある帳場にも人のいるようすはなく、どこかで、はたきをかける音が聞えた。

「もっと、大きな声じゃなければだめよ」

お豊がそう云い、自分で大きく叫んだ。

すると向うの階段の上で答える声がし、ばたばたと人がおりて来た。お千代という若い女中で、幹太郎を見ると、

「まあしばらく」とにこにこ笑った。しかし、幹太郎が「あがってもいいか」と訊くと、突然なにか思いだしたようすで「いま、お杉ねえさんを呼んで来ます」と云い、はたきを持ったまま、ばたばたと奥へ走っていった。

「あんた大丈夫なの」

と、お豊が囁いた。

幸坊も不安そうに、片手でお豊の袂を掴みながら、あたりを眺めまわした。おそらく女あるじと相談でもしていたのだろう、ややしばらくして女中頭のお杉が出て来た。

「いらっしゃいまし、しばらくでございますね」

お杉は挨拶をしながら、無遠慮に幹太郎のみなりを見、それからお豊と幸坊を見た。

――おれのことを聞いたな。

淵辺道場から放逐されたことを聞いているに違いない、幹太郎は屈辱で躯がふるえた。かつて「こんどお一人でいらっしゃいな」